担当コンサルタント:福島 光伸
100年以上の社歴を誇る、卸売会社からのご依頼だったのです、実はこの会社は数年前にもサイエスでご指導したことがありました。
当時は別の人間が担当していまして、先代の社長に、100億企業を実現するための考え方や手法を、情報としてお伝えするにとどまっていました。私が言うのもおかしいのですが、一昔前のコンサルはクライアントの知らない手法、知識を提供するだけで顧客満足は高かったと思います。市場そのものが成長していましたから、他者の知らない手法、知識があれば成長が加速したということだったと思います。
その後、再びサイエスのセミナーに部門長が参加され、先代社長の息子さんであり、現在の社長にお会いすることになりました。
さっそくヒアリングを開始したのですが、社長とお話していても、何を考えているのかがまったくわからないのです。「とにかく儲けたい!」でもいいので、何かしらのエネルギーを感じられれば、我々はそこから突破口を見つけることができます。しかし、社長に何かを指摘しても、「そうですよね。本当にそうなったらいいですよね……」で終わってしまう。これには困りました。
社長にエネルギーがないというのは、言い換えれば「車が動いていない状態」と同じことです。我々がどんなに一生懸命ハンドルを切っても、車は絶対に進行方向は変わりません。
もしかすると、社長も内心では「会社をこうしていきたい」という思いがあったのかもしれません。しかし、それを口に出すことはありませんでした。100年も続いている会社ですから、社長のまわりには、先代社長のころから長年お世話になっている、自分より年上の番頭のような幹部がいるわけです。すると変な遠慮も生まれてしまい、活発な意見が飛び交わされない。
かと思うと、突然強硬な態度に出ることもあります。正しいリーダーシップの振る舞いや、力の使い方を上手くコントロールできていない様子でした。
社長のモチベーションは、良くも悪くもそのまま社員へと伝わります。会社の資金は潤沢だったので、売上がいかなくても給料が下がる心配や、「ここで踏ん張らなければ会社が潰れる」という危機感もありません。本来は喜ばしいことなのですが、それが社員に変な形で蔓延してしまっていて、決めたことが守られない、「やろう」と言ったことがやれない、という惰性の状態を生み出していました。
サイエスでは、こうした状況の打開策として、言葉で説くことをしません。あくまでも事業戦略と組織、仕組みづくりを内在した年度計画策定と推進で解決させていきます。
薄利多売を脱却するための新たな事業方針を打ち出し、年間計画、個人のアクションプランへと落とし込んでいくなかで、社長をはじめとする社員の意識を変えるための仕組みを盛り込んでいきました。システム化してしまえば、社長も管理をやらざるを得なくなりますから。
特に重要だったのは、人事考課の見直しです。業績や責任感などを評価する項目はありますが、「作り上げた活動計画を実行しているかどうか」という項目はありません。部門損益、活動計画、アクションプラン、評価がバラバラにならないよう、配慮する必要がありました。
これまでは、業績が上がらなければ社長は「何をしているんだ」という叱咤しかできませんでした。ですがこれは、社員にとっては理不尽な言葉です。「一生懸命やっています」としか答えようがありません。
しかし活動計画があれば、それを共通言語として「なぜ、この計画を実行していないんだ」という視点ができます。その原因を突き止め、より発展的な解決策を探ることができるのです。
こうした社員とのコミュニケーションを続けるうちに、社長も自然とリーダーシップを発揮されていきました。そして何よりも、結果的にご自身のモチベーションアップに繋がっていったように感じています。