担当コンサルタント:山田 亮
日用品の卸売会社の事例ですが、創業者である社長が「自分はあと2、3年で引退して、役員である息子に継がせたいので面倒を見てほしい」というご相談でした。
カリスマ性はありますが温厚な社長で、何かを強制するような面はありません。人間的な魅力で、これまで会社や社員を引っ張ってこられたのだろうと思います。
社員は年配の方も多く、将来に対する意識は薄かったですね。そして何よりも問題なのは、息子さんが社長に就任することに対し、社員が不安を抱いていることでした。
ですがそれは、息子さんの経営者としての素質そのものに対する不安ではなく、「できるかどうか、わからない」というものです。
組織が機能しておらず、すべてが社長のトップダウン方式だったこの会社で、これまで息子さんが意思決定する場などありませんでしたから。
実際問題として、コンセンサスがとれていないな、という印象はありました。事業の方針一つとっても、横ラインでの意思決定が統一されていないんです。
こうした事情を踏まえて、社長ではなく息子さんを中心にした幹部で、組織の仕組み作りを進めていきました。未来のビジョンは次世代のリーダーが担うべきものだからです。もちろん、社長にも趣旨を説明し、数ヵ月ごとに進捗を息子さんから報告してもらうことでご理解いただきました。
会社の業績はというと、売上は毎年右肩下がりの状態です。顧客を増やそうにも地域的な問題があり、拡大するのは難しい。そこで、メーカー機能や店舗展開など、垂直投法という複合的な方針を策定していきました。
本来なら、次のステップは事業構想なのですが、まずは営業力の強化を優先することに。
当時の営業スタイルは、一人の営業マンは一日に多く得意先を回りますが、「何かありますか?」と声をかけるだけ。顧客に気に入られれば売上も上がるという、営業個人の人柄やタレント性に依存している傾向がありました。これを変えない限りは、事業構想などないと判断したからです。
いかに提案型の営業をしていくかが課題でしたが、実はこれが実践できている人もちゃんといるわけです。その情報やノウハウを、全社的に応用できる仕組みにすることで、営業力の強化を図りました。できていない人物を捉まえて延々と説得するよりも、非常に効率的ですからね。
他にも、売上だけでなく生産性をどう上げていくかや、原価意識についても切り込んでいます。
こうした経緯のなかで、息子さんは必然的にあらゆる部署の人と調整をとっていくので、自然とリーダーシップを発揮できるようになります。経営者の風格というか、徐々にトップらしくなっていくんですね。
さらに、彼がやろうとしていることが目に見える状態になると、社員たちも自然と信頼を寄せるようになりました。社長も、自分とは違うやり方で改革を進めていく姿を見て、時期継承者として認められたようです。その後、息子さんは社長として就任されました。
現在では、息子さんはもちろん、部門長をはじめとする、社員一人ひとりが能動的に考えるようになり、市場自体が落ち込み激しいなかで、大健闘されていると思います。