担当コンサルタント:山田 亮
社員数約70名、年商30億ほどの卸売会社で、先代の父親から受け継いだ二代目社長からご依頼を受けました。事業を継承したものの業績は横ばいで、それほど上手くいっている状況ではありませんでした。
社長は非常に勉強が好きで、会社の経営や未来についても大変真剣に考えていました。ですが、その方向が論理的な世界に行ってしまい、「俺を信じてついてこい」といった宗教に近いリーダーシップになっていたのです。
あらゆる新しい経営学を取り入れては次々と新たな手法を打ち出すものですから、社員にしてみれば、仕事をするというより、ついていくのが精一杯。限られた経営資源のなかで事業展開するには、目指す方向をある程度、固定して進むことが必要です。肝心のプランからも具体的な方向性は見えてこず、経営の本質的な意味から遠ざかっていました。
さっそく会社へ伺うと、オフィスは綺麗で社員の接客態度も素晴らしい。みなさんとても笑顔で応対も丁寧なんですが、少し表面的な印象も受けましたね。自ら考えて、個性を発揮しているようではない。
社員へのアンケートでも、会社への批判ではなく「業績を上げられない自分たちが悪い」といった優秀な答えが返ってきました。幹部も当然一生懸命なんですが、常に、社長がどういう答えを持っているかを探っています。それに合っていないと、何倍にもなって戻ってきてしまうからなのでしょうね。社員の多くが、お客様より社長のほうに意識が向いているのが問題でした。
これでは本音は引き出せないと思い、なるべく個別に接点を持って、少しずつヒアリングを行うことにしました。
ヒアリングをもとに状況分析、さらに事業構想をまとめ、年度計画の策定に入ったのですが、ここで社長は、プランの緻密さ、完成度を高めることを何度も求めてきたのです。ご本人もかなり勉強されていますから、どうしてもそちらに意識がいってしまうのでしょう。
本来、年度計画というのは事業の全体観、全容を確立するためのもので、細かな部分にいってしまうと、年度計画だけで何百枚もの書類となり次のステップに進むことはできません。さらには実態と乖離してしまい、あるべき論や、現実感がない方向に行きがちです。画期的なアイデアを無理に取り入れることや、素晴らしい計画案を争う必要はないのです。
その旨を社長にご説明し、まずは計画として承認してもらい、実行していくなかで、毎月修正していきましょうと、ご理解いただきました。
こうした工程のなかで、社長自らも組織を作ることの大切さや、サブリーダーの必要性を認識されていきました。社員を指揮することに酔っている社長がいるかぎり、次のリーダーは育ちません。社長は提示するのは全社方針であり、全社方針に基づいて部門計画を練るのは、部門長らの仕事です。部門長に考える機会を与え、責任を持って進捗をチェックせざるを得なくなるように、組織の仕組みを作り変えていったのです。
我々サイエスの役割は「100億企業となるための組織と仕組み作り」ですから、一年後の決算で売上が倍増する、というわけではありません。数年後に数字としての効果を発揮するためには、仕組みを根付かせなければならない。これは残念ながら何十時間も講義をしたところで、なかなか実現できることではありません。
ですから、サイエスの魂の入った仕組みを導入することで、その仕組みそのものが社長や社員を変えていくという手法を用いているのです。