担当コンサルタント:福島 光伸
ケミカル関係の商品を販売している会社の事例です。
会長は非常にカリスマ性のある方で、社長は、会長のいた会社にM&Aにより吸収合併された先の出身でした。ですから、実質的な権限は会長にあったようです。コンサルのご依頼も、会長からいただきました。
お話を伺って、会長は経営者というよりは教育者に近い印象を受けましたね。社員教育に非常に熱心で、「社員の心を磨けば、経営は良くなる」といった思想を持っており、社員研修にもかなりの経費と時間をかけていたようです。社員アンケートでは「研修で営業に行く時間がありません」「担当しているお客様に、“いつも合宿ばかりだなあ”と言われてしまった」というコメントが出るほどでした。
面倒見がよく教育熱心なので、会長に対する信頼度は高いのですが、会社は学校ではありません。もちろんマインドは大事ですが、それだけで経営が良くなるはずもなく、当時の問題点として曖昧な事業戦略、会長と社長との関係性、M&Aによる融合しない2つの企業文化などを指摘させていただきました。
まず最初に取り組んだのは、トップ陣の意思の統一です。会長、社長、常務がそれぞれ何を思っているのか。5年後にどこを目指すのか。それらを共通認識とするためのすり合わせを行いました。
最初は、なかなか意見が出ませんでしたね。すぐに会長が否定されてしまうので。社長は学歴もあり非常に頭の良い方なのですが、ご自分の意見を言うタイプではなかったし、会長も聞くタイプではない。方針発表会でも、2時間のうち1時間半は会長のお話です。社長も社員もそのような環境の中で牙を抜かれてきたというという印象を受けました。
サイエスでは、こうした企業文化を変えていく「組織の仕組み」を作り、提案していきます。具体的には、会社方針を部門方針に落としていき、それを実行するための部門計画の策定、部門長のマネジメント力の育成、目標管理のためのインフラ整備などです。これらはごくごく当たり前のことで、この会社でも提案したときに「そんなことはできている」という意見でした。ただそれは「知っている」ということであり決して「できている」ということではありません。
社員のみなさんは優秀で、部門計画も素晴らしいものがあがってきました。しかし、ダイナミックに事業を展開していくようなパワー溢れるタイプではありません。さらに計画を実行しているかをチェックする進捗会議で、「研修が忙しくて、活動ができない」と言うのです。
社員一人ひとりの意識を変えていただくのはもちろんなのですが、構想力を持たせるための研修や勉強会に力を入れておきながら、その構想力を発揮する場は与えないという矛盾。この企業文化、思考パターンが、100億企業への大きな壁になっていたと思います。
この会社では、これまで様々なコンサルを導入しておられました。コンサルにはあらゆる角度からのアプローチがあり、それを否定する気はありません。
ただ、その会社の成長の阻害要因に着眼して直していくには、ときには汚い部分・触れられたくない部分にメスを入れなきゃいけないときもあります。多くのコンサル会社さんは、それを避けて自分の得意分野に持ってきてしまう。
たとえば、IT系のコンサルであれば「この問題は、ITシステムを変えればすべて解決します」と提案したり、人事コンサルなら「社員が育たないのは人事の問題です」と言ったり。
会社というのは、業績を上げていくための事業戦略と構想、展開、実行でのみ、成長することが可能なのです。そしてその結果、社会貢献、自己実現、よい会社へとつながる。
この会社にもこうした企業体質に変わる第一歩として、サイエスは一石を投じられたと思います。