担当コンサルタント:福島 光伸
中小企業の経営体質というのは、社長の思想が非常に大きく影響します。
ある企業の社長は、物を売っていくという点に関しては、非常に優秀な方でした。
若くして会社を立ち上げると、あっという間に年商5億円までに成長させ、その後、年商30億の企業をM&Aし、一気に規模を拡大させたんです。
50名ほどの社員を抱えるとなると、社長には経営のセンスやマネジメント力が求められてきます。ですがこの社長は、そのような視点を持っていませんでした。ご自身が「売上至上主義」をもとにここまでやってきたので、社員にも同じことを要求していたんです。100億企業を目指すには、「5億売れる人間を、20人集めればいい」と。さらには、「社員は甘やかしてはいけない。自分の方針に納得できないなら辞めてもらう」という考えを持たれていました。
これでは社員の心は掴めません。いくらM&Aで規模を拡大させても、組織として機能できなければ、「蛇が熊を呑んでいる」状態です。
サイエスでは、まず最初に社長、幹部、社員とヒアリングを行うのですが、この時点で社員が社長に対して心を閉ざしているのを強く感じました。さらに、社長が目指す会社のビジョンと、社員のモチベーションの現状とのギャップも非常に大きかったですね。
ですが、何ヵ月もあるべく論を話し続けていても意味がありません。
まずはサイエスの考えるあるべき企業像と社長のお互いの認識が共通している点から入ることにしました。
それは、「業績を上げること」です。これには社長も異議ありませんからね(笑)。
目標を実現するための年間計画を策定するわけですが、当初は部門長から「この忙しいなか、なんでこんなことをするんだ」という意見もありました。「その忙しさをなくすために、やるんです」と説得し、部門ごとの活動計画を作ったのです。
しかし実際は、すぐに計画どおりにできる人などいません。また計画と関係ない目先のことに戻ってしまいます。特に営業は、社長の「売上至上主義」に引っ張られてしまい、活動計画よりも販売業務をこなすので精一杯。みなさん、実行力はあるんです。ただ考える力がない。食事もしないでひたすら売りにいくことが、ノルマ達成に一番近い方法だと考えていたんです。
活動計画には、企画別戦術や顧客別戦術も組み込まれていましたが、こうした「考える営業」の実行については、月1回の進捗会議で「やる時間がなかった」という報告がほとんどでした。そこで、進捗チェックを2週間単位に変更し、なぜできなかったのか、実現するためにはどうしていけばよいかなどを、考えるようにしていきました。
営業マンは数字がすべて。
この気持ちはわかります。でもそれは数字が上がればいいのではなく、自分がやったことに対する成果が出た喜び、会社方針に則り自分がマネジメントをして、成果を上げたという醍醐味とともにあるべきものです。さもないと営業マンとしてのモチベーションが維持できないことは営業経験のある私にはよくわかります。
そうすることで初めて、一匹狼の営業ではなく、組織とシステムのなかに組み込まれた、本来の営業の姿が見えてくるのだと思います。
組織が機能していくにつれて、その効果を数字で感じるようになると、社長もサイエスがやろうとしていることに理解を示していただくようになりました。結果的に、私どもと社長の間に強い信頼関係が生まれたと感じています。